ミケーレはファッションの最も美しい性質を「曖昧さ」であると考えている。2015年6月、グッチの2016年春夏メンズコレクションの、ジェンダーを曖昧にしたコレクションを思い出すとわかりやすいかもしれない。著書では「美と曖昧さは、あらゆる形の存在に根ざした欲求であり、外在的な装飾ではない。自然界に美を認めるとすれば、それは生きとし生けるものにメタモルフォーゼをもたらすことができるからだ」と語っている。

両親とおばからの影響も大きい。自然には常に二重性があることを双子から教えられ、父親からは「広大な地平線にも、卑小な物にも、あらゆるところに美が潜んでいること」を教えられた。また長髪だった父親の髪をミケーレと母親が交代で髪を編んでいたそうで、年齢や性別にとらわれないミケーレの髪型への影響がうかがえる。服装に関しても、祖母や母親が着ていた1940年代から70年代のドレスやスカートを家で見つけて、友人たちと即興でファッションショーをして遊んでいたという。服装の性差を曖昧にすることで、その意味を変化させる。ファッションにはこうした解放の力があるということを、遊びを通して気づいていたのだろう。

5. 「喜びと幸せの8年だった」アレッサンドロ・ミケーレ、メットガラ、ハリー・スタイルズ

2019年のメットガラに登場したアレッサンドロ・ミケーレとハリー・スタイルズ。

2015年から2022年までグッチでクリエイティブ ディレクターを務めたミケーレは、8年間を振り返って「喜びと幸せの8年だった」と語った。大抜擢によって突然スポットライトを浴びせられたように思われていたが、当の本人はそんな感覚はなかったという。当時すでに10年以上グッチで働いていて仲間がいたこともあるが、就任直後はメンズコレクションとプレタポルテを立て続けに発表し「本当に混乱していた。ただ、取り組んでいた多くのことに集中していた」からだ。小さなスタジオで、友人や長年一緒に働いてきた人たちに囲まれての仕事は「自分の物語やビジョンを具現化して、若い世代や老若男女すべての人々をリードする。とにかく楽しかった」と語る。在任中は「GG MARMONT」や「ANIMALIER」、ビットローファーのファースリッパなど数々のヒットアイテムを発表し、グッチの売り上げを3倍に伸ばしたと言われている。

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