朝日小学生新聞 佐藤美咲

撮影・堤博之

自分ではなく、だれかのために

小学生のころから、歴史を学ぶのが好きだった。「なぜ、いま自分がこうして生きていられるのかは、昔があるから。子どもながらに、自分が生まれていない時代を知ることはすごく楽しかった」

当時は戦国時代が好きだったが、いまは江戸時代中期に没頭。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」で、主演する蔦屋重三郎(蔦重)が生きた時代だ。

浮世絵をはじめ、絵をふんだんに使った本「黄表紙」などで文化が花開いた江戸時代。蔦重は、いまでいう出版社の社長として、浮世絵師の喜多川歌麿や葛飾北斎、作家の滝沢馬琴たちの才能を見いだした。親もいなければ、お金もない。「ないないづくし」ながらも、江戸のメディア王へとのし上がっていく。

自身はこの作品で「初めてづくし」だ。大河ドラマは初めての出演にして初主演。NHKの作品自体、かかわるのも初めてだ。

江戸時代中期をえがくのは大河ドラマで初めてで、自身もふれてこなかった世界観。とびぬけて明るく、人間くさい蔦重は、これまで挑戦してこなかったキャラクターでもある。

江戸の方言や当時の所作(ふるまい)を身につけるのも一苦労だという。1年間やりきる体力も求められるなど、立ちはだかるかべは高い。それでも「自分にしかできない蔦重を生きられたら」と力強く答える。

長期間、作品にたずさわるのは、スーパー戦隊シリーズ「烈車戦隊トッキュウジャー」(2014~15年)に出演して以来だ。「そのときに芝居の楽しさを知り、この世界で生きていこうと心に決めた。10年がたち、また同じようなことができるのはうれしいし、ぜいたくです」。1話目で蔦重は緑色の着物を身にまとう。「戦隊をやっていたときもグリーンだったので、緑には縁がありますね」と笑顔を見せる。

合戦シーンはないが、「商売の戦」がくり広げられる。権力者に目をつけられながらも、おもしろさを追求し続けた蔦重の一番の魅力は「自分でなく、だれかのために動ける」ところだという。「そうできる人間は強いし、周りから協力も得られる。自分もそうありたいです」。だれもが知る人物ではないからこそ、「先入観なく見られるはず。いまのポップカルチャー(大衆文化)の基礎をきずいた人でもあるので、子どもたちも注目してほしい」と呼びかける。

いくつもの失敗を乗りこえながらも、江戸の文化を豊かにしていった蔦重の姿は「失敗をおそれ、挑戦にふみだせない人たちの背中をおせるはず」。そう信じ、この1年をかけぬける。

横浜流星(よこはま・りゅうせい)

撮影・堤博之

 1996年9月16日生まれ、神奈川県出身。2011年に俳優デビュー。主な出演作にドラマ「初めて恋をした日に読む話」「着飾る恋には理由があって」「新聞記者」、映画「線は、僕を描く」「春に散る」「正体」など。

あこがれの存在 「蔦重」をえがく
脚本家 森下佳子さん

いまの私たちが生きる指針にもなる物語に

明るくて頭がよく、笑いのセンスもあり、周りに愛された――。そんな蔦重を「あこがれの存在」と話す。「そこに横浜さんのビジュアルと笑顔がのると、蔦重のことを好きになりすぎるんじゃないかと。いま危険な状態です」

大河ドラマの脚本を手がけるのは、2017年の「おんな城主直虎」以来、2度目。「意気ごみを見失うくらい、とにかく資料が多い」と苦笑いする。資料の海におぼれながら、物語をつむいでいる最中だ。

脚本はみんなが作業するための設計図――。そう思っていたが、完成した1話目を見て「自分が書いたものは『種』にすぎない」と感じた。「できあがったものは『森』のような大きな世界観になっていた。私も、もっともっとがんばろうと思いました」

江戸時代中期は、生死をかけた戦いからは遠くなっているが、人々が自分の欲望を達成するために戦ったりと、「いまの私たちとあまり変わらないのでは」とも考える。「(蔦重がたずさわった)出版は時代を映していくもの。その時代がどう動いていったかを知ることは、いまの私たちが生きる指針にもなると思うので、えがいていけたら」

森下佳子(もりした・よしこ)

Ⓒ朝日新聞社

 2000年に脚本家デビュー。代表作にドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」「JIN―仁―」「義母と娘のブルース」など。

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合・日曜午後8時ほか

(朝日小学生新聞2025年1月3日付)

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