押しかけ客が一番多かったのは2021年か2022年頃で、TikTokが流行り始めていたパンデミック直後のことです。誰かがわざわざニューヨーク・ファッションウィークのPRメールをすべてまとめたスプレッドシートを投稿しことで一気に増えました。何百通ものスパムメールが届いて、あれはもはやドキシング(個人情報などを本人の同意なしに収集してインターネット上で晒す行為)でした。スパムメールを送ってきた人の大半はショーに来ないんですけれど、何百通ものでたらめのメールに目を通すのは、骨を折る作業です。
ビヨンセがルアール(LUAR)のショーに来場したときのことも記憶に残っています。というのも、彼女の出欠については聞かされていたんですが、ほとんどの大物セレブがそうであるように、本当に出席するかどうかは、直前までわからなかったのです。
当日、彼女は会場に早めに到着して、すべて滞りなく進みましたが、誰を同伴してくるかは知らされていませんでした。娘さんのブルー・アイビーなのか、母親なのか、はたまた別の人なのか。とりあえず、家族全員分の席を用意しておいたんです。入退場をどうするかも事前に綿密に計画しなければならなかったんですけれど、すべてとてもスムーズにいきました。どちらかというと、いろいろな人から送られてきたメッセージの方がおもしろおかしかったです。主にエディターたちからだったんですが、皆「ビヨンセが来るって本当ですか?私も今から向かいます」という調子でした。
8. 行方不明のデザイナー/マリアーノ 2024-25年秋冬メンズコレクション
マリアーノ 2024-25年秋冬メンズコレクションより。
Photo: WWD/Getty Images
ムミ・ハイアティ(リファレンス・スタジオ設立者)
PRの仕事を始めて20年、自分の会社を経営して7年になります。一番印象に残っているショーについて聞かれたとき、私が担当しているデザイナーの1人、ルキーノことルカ・マリアーノが頭に浮かびました。“ルキーノ”はイタリア語で「小さなルカ」という意味です。