JG あらゆる感情、万感です。喜び、怒り、悲しみなどが生み出すすべての感情、そしてときにはそれらの感情を引き出してクリエイションを行ってきました。今回の「アーティザナル」コレクションの場合は、月明かりによって引き出される情感を服に反映するようにしました。
たとえば、一見ツイードに見えるけれど、実はオーガンジーやシフォンなどの軽量の生地をいくつものレイヤーにして、表面にツイードの質感をプリントしたいわばトロンプルイユの技法「ミルトラージュ」を使用して月明かりで濡れたような印象を与える「アクアレリング」で仕上げるなど。
また、セーヌ川の寒さに震えるというのも、ある種の感情だと思うのですが、その表情を形作る無意識のジェスチャーを衣服に染み込ませる「エモーショナル・カッティング」という新しい技術を使っています。
雨の中でジャケットを頭からかぶったり、顔を隠すように襟を立てたりといった仕草を、衣服に反映する技術です。ただ、こういう技術的な話になると永遠に話してしまうので、一旦ここでやめましょう(笑)。
山本 そういう新しい技術は、どのようにして閃くのでしょうか?
JG 人間観察による部分が大きいです。街は人々のさまざまな動きや表情であふれているので、スマホを眺めるのでなく人間観察をすることで、カッティングなどの新しい技術が生まれてきます。常に私たちの周りでは何かが起きているので、それに気づくかどうかなんだと思うのです。
日本ではすべてが時間通りに動きますが、ヨーロッパでは電車も飛行機も遅れるのが当たり前なので、遅延している間、ポケットに手を突っ込んでつまらなそうにしている人を見たりしています。そういう無意識のうちに行っている動作が美しいものになりうるのです。
みなさんもヨーロッパにいらしてください。時間が遅れてイライラするフラストレーションだらけの場所に来ることで、得られるものもあるかもしれません(笑)。たとえデザインをするのに不要だったとしても、そういったものや人を観察して記憶することは、何がしかの形で生きてくると私は思っています。