※雑誌『WIRED』日本版 VOL.55 特集「THE WORLD IN 2025」の詳細はこちら。

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世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く恒例の総力特集「THE WORLD IN 2025」。麻布台ヒルズを手がけたことでも知られるヘザウィック・スタジオの創設者トーマス・ヘザウィックは、建築と人々の健康や幸福の関係を測定する神経建築学の重要性を説く。

多くの都市は、貿易や産業、クルマの流れを基に発展してきた。リヴァプールの港、大阪の工場、ニューヨークでロバート・モーゼスが推進した自動車優先の都市計画、そして現代リヤドの低密度な都市の拡大など。これらの場所のほとんどは、人々の健康を考慮してつくられてはいない。だから都市へと人類が移り住むなかで、うつ病やがん、糖尿病といった疾患が急増していったのだ。

人と生活環境の不調和はいまに始まったことではない。20世紀後半から、米国の著述家で活動家のジェイン・ジェイコブズや、デンマークの建築家ヤン・ゲールなどの先駆的な思想家たちは、無機質な建造物、不毛な空間、そして乱暴とも言える高速道路によって、いかに非人間的に都市がつくられているかを指摘し始めていた。

こういった文献は建設業界では広く読まれたが、同時に周縁化され続けてきた。無機質で冷たいスタイルの建築物に執着するメインストリームの建築界にとって、都合の悪い真実だったからだ。ジェイコブズやゲールの意見は特定のコミュニティが直面する極めて現実的な問題を指摘した一方、確実な証拠が少なく、限られた事例研究と自身の言葉に頼るしかなかったのだ。

しかし近年、周囲の環境に対する身体の反応を測定できるウェアラブルデバイスなどを使い、高度な脳のマッピングや行動研究ができる新たな手法が登場した。そうなると建設業界は、自らがつくり出した環境についての人々の意見を無視できなくなる。

かつては研究室に制限されていたこれらの神経科学的、および「ニューロアーキテクチャー的(神経建築的)」研究方法が、街へと拡がりを見せている。カナダのウォータールー大学のコリン・エラードが率いる「Urban Realities Laboratory」は、この分野で先駆的な研究を行なっている。欧州連合(EU)が資金提供する「eMOTIONAL Cities」プロジェクトは、リスボン、ロンドン、コペンハーゲン、ミシガンで進行中だ。アムステルダムでは、フランク・スーレンブルックとギデオン・スパンジャーが「Sensing Streetscapes」という研究プロジェクト(高密度都市環境と高層ビルが増加する状況下で、人間尺度の街路景観をどのように設計すべきかという課題を探るもの)を実施しており、ニューヨークとワシントンD.C.でも「The Human Architecture and Planning Institute」が同様の取り組みを進めているところだ。

「Humanise Campaign」はエラードと協力し、異なる建物の外観に対する人々の心理的反応を調査する国際的研究を開始した。この活動は、ケンブリッジ大学のクレオ・ヴァレンタインの研究と並行して委託されたもので、特定の建物のファサードが神経炎症を引き起こす可能性があるかを検証し、建物の外観と検証可能な健康への影響との直接的な関連性を探っている。

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