※日経エンタテインメント! 2024年10月号の記事を再構成

動画配信サービスが、Z世代にとってスタンダードメディアの1つとなっている現在。2015年9月に日本へ上陸してから早9年が立つNetflixは数ある動画配信サービスのなかでも、若者たちの話題となる数々のオリジナル作品を生み出している。それらは、時代のイシューに深く切り込んだドキュメンタリーから、オリジナリティーあふれるドラマまで、エンタメの中に多くの“学び”を詰め込んだ作品が多いのも特徴だ。Netflixから学ぶZ世代「Netflix Education」の実態について見ていく。

日本初となる、男性同士の恋愛リアリティーショー『ボーイフレンド』。約1カ月、一緒にコーヒートラックを運営しながら「グリーンルーム」と呼ばれるひとつ屋根の下で生活を共にする。恋愛のみならず、深い友情を感じさせるエピソードも多く、幅広い世代が夢中になっている

日本初となる、男性同士の恋愛リアリティーショー『ボーイフレンド』。約1カ月、一緒にコーヒートラックを運営しながら「グリーンルーム」と呼ばれるひとつ屋根の下で生活を共にする。恋愛のみならず、深い友情を感じさせるエピソードも多く、幅広い世代が夢中になっている

 物心ついた頃からSNSが存在していたZ世代を表現する際に「ソーシャルネーティブ」という言葉がよく使われるが、Netflixの日本上陸が2015年であることを考えると「Netflixネーティブ」とも言えるのではないだろうか。

 幼い頃はレンタルビデオショップを活用していたZ世代も、10代のうちには瞬く間に動画配信サービスが普及し、Netflixオリジナル作品などに触れる機会が急増している。

 Netflixが日本に上陸してからの数年を振り返ると、『Cowspiracy:サステイナビリティ(持続可能性)の秘密』や『13th -憲法修正第13条-』『食品産業に潜む腐敗』など、環境問題や人種問題、さらには食と健康の問題に鋭く踏み込んだドキュメンタリー作品などが話題を集めていた。

 そういった作品には大いに「学び」の要素があり、SDG’sやサステナブルといった時代のキーワードを読み解くヒントが詰まっていたことは間違いない。

 その後、様々なオリジナル作品が配信されていくなか、「エンタメ×学び」という意味で話題となった作品の1つが、19年に公開され、その後シーズン4まで続く、イギリス発のコメディドラマ作品『セックス・エデュケーション』だ。社会で(日本国内では特に)タブー視されがちなジェンダー論や中絶との向き合い方といった「性教育」について、考えさせられる要素が詰め込まれている。

動画配信サービスの満足度ランキング

男性同士の恋リア『ボーイフレンド』

 24年7月に配信されるやいなや、Z世代を中心に話題になっているのが、男性同士の恋愛リアリティーショー『ボーイフレンド』だ。9人の男性たちがひと夏の共同生活を通し、本気の恋を探していく姿を描いている。この作品のどこに“NEW STANDARD”なポイントが込められているのか、Netflixの担当プロデューサーである太田大氏に聞いてみた。

『ボーイフレンド』は7月9日の公開から5週連続で「Netflix TOP10」入りを記録し、YouTubeで配信されている未公開映像などのアフターコンテンツの人気も高い

『ボーイフレンド』は7月9日の公開から5週連続で「Netflix TOP10」入りを記録し、YouTubeで配信されている未公開映像などのアフターコンテンツの人気も高い

 「私自身、恋愛リアリティーショーと呼ばれるジャンルにおける“恋愛”が、日本ではこれまで当然のごとく異性間の恋愛のみを指してきたことと、それが業界において暗黙の了解のようなものになってきたことに長年違和感を感じていました。一方で、近年のドラマや映画などの世界では、同性間の恋愛が多く描かれるようになってきています。ならば、リアルを届ける世界でもこれまで描かれることのなかった同性愛の恋愛を主軸に置き、彼らのリアルな人生を映し出す作品を作りたい。そういう思いを抱えてきたなかで『期が熟した』と感じ、このタイミングで企画しました」

 そんな『ボーイフレンド』は、視聴した若者たちにとっても、LGBTQ+に対する価値観を大きくアップデートしてくれる作品になっていると太田氏は考えているようだ。

 「政治や教育、報道などで取り上げられることで社会的な理解は深まっているものの、LGBTQ+の『日常の姿』が日本のメディアから届けられている事例は少ないと感じています。あえて『普通』という言葉を使うならば、この番組をきっかけに、それが『普通であるもの』としての理解が広まればうれしいです。また作品の意図として、マジョリティーに対するマイノリティーを理解してほしい、という狙いはありません。『ボーイフレンド』でのLGBTQ+のリアルな姿を通じて、人間性を感じ取り、異なる背景や経験を持つ人々への理解が深まることを期待しています」

オーセンティックな世界観を重視

 ではここで、なぜNetflixの作品が、多感なZ世代たちに刺さり、多くの話題作を生み出しているのかについても太田氏の言葉を借りながら紐解いていきたい。

 「『ボーイフレンド』の話ともつながりますが、Netflixではまだ語られていない物語や体験を視聴者に届けることを大切にしています。またNetflixでは、ローカルファーストという戦略のもと、自国の視聴者を第1に考えた作品づくりを行っています。海外に向けた作品を制作するという意識ではなく、なにより自国の人に愛されるような、オーセンティックな世界観を持つストーリーこそが国を超えて、世界中の人に楽しんでいただける作品になると考えています」

 オーセンティックとは「本物、実際の」「忠実な」「信頼できる」などを意味する形容詞で、アメリカの辞書出版社メリアム・ウェブスターの「Word of the Year 2023」に選出された注目キーワードでもある。過剰な「映え」や「フェイク」に疲れたZ世代がリアリティーを求めるようになっている昨今、Netflixが映像作品を通じて、その受け皿として機能しているとも言えるのではないだろうか。

ドラマを通じて社会問題を問う

 Z世代が学びを感じているのは、ドキュメンタリーやリアリティーショーだけの話ではないようだ。23年大ヒットした『サンクチュアリ -聖域-』、この夏、話題を独占している『地面師たち』などのドラマ作品は、フィクションながらも、そのリアリティーのあるストーリー展開や生々しい映像の作り込みに、多くの視聴者が刺激を受けている。

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 8月29日より配信が始まった『恋愛バトルロワイヤル』も、そのポップなタイトルとは裏腹に、現代の社会問題に深く切り込んだドラマ作品だ。「男女交際禁止」の校則が制定された超エリート高校を舞台に、嫉妬・羞恥・背徳・憎悪が渦巻く人間模様を描いている。担当プロデューサーである岡野真紀子氏に、この作品に込めた思いについて語ってもらった。

8月29日より配信がスタートした『恋愛バトルロワイヤル』。見上愛と宮世琉弥という人気俳優2人を中心に若手キャストが集結し、寺島しのぶ、吉田羊らが脇を固める。Netflixの日本製作ドラマとしては初のオリジナル学園ドラマだ。事前視聴調査では、85%がストーリーや登場人物に共感し、満足度は脅威の95%超えを記録した

8月29日より配信がスタートした『恋愛バトルロワイヤル』。見上愛と宮世琉弥という人気俳優2人を中心に若手キャストが集結し、寺島しのぶ、吉田羊らが脇を固める。Netflixの日本製作ドラマとしては初のオリジナル学園ドラマだ。事前視聴調査では、85%がストーリーや登場人物に共感し、満足度は脅威の95%超えを記録した

 「『恋愛バトルロワイヤル』は、男女交際禁止の校則から派生した裁判のニュースからインスパイアされて企画しました。私が通っていた女子校も恋愛禁止だったことからいろいろと調べてみたところ、処罰の程度の差こそあれ、今の時代でも同じような校則が定められている学校があることに驚きました。それでも誰かを好きになってしまったらどうしたら良いのか? 人を好きになることは罪なのか? という思いがあり、Netflixオリジナルで学園ものを作るならぜひこのテーマでやってみたい、と思いました」

 実際に予告動画を解禁した際には、海外から「日本は出生率が低下しているのに、こんな校則は大丈夫なのか!?」というコメントがいくつも見受けられたという。

 「恋愛観だけでなく、結婚観や人生に求めるものがどんどん多様化していると感じています。だからこそ、Netflixから各国のジャンル豊かな作品を届けることで、視聴者自身がこれまで知らなかった文化やストーリーを知り、作品を見た人同士のつながりや会話のきっかけになればうれしいです」

 確かに、Netflixのオリジナル作品の特徴は、見た人同士が「語りたくなる」ものが多い。Z世代の間でも「『ボーイフレンド』見た?」という会話をきっかけに、自ずと多様性について学ぶ機会が生まれているのだ。今後もNetflixから新たな作品が誕生するごとに、Z世代の価値観もアップデートされていくだろう。

キーポイント

Z世代へのNetflixの影響力がスタンダードに
若者の価値観を形成するメディアの1つとして浸透
ドキュメンタリー、ドラマ問わず学びの多いオリジナル作品

Z世代リアルボイス 「Netflixの影響は?」

Aさん/社会人/25歳の場合
「ドラマもドキュメンタリーも気になった作品は満遍なくチェックするタイプですが、Netflixは他の配信サービスでは見られないような作品が多いなという印象です。話題になってる『ボーイフレンド』にもハマってしまって、YouTubeで未公開映像を見たり、出演者のSNSも追いかけています。日常の何気ない会話シーンからもすごく学びがあるし、出演者みんないい人すぎて泣きました(笑)」

Bさん/大学生/22歳の場合
「僕は特にNetflixのドキュメンタリー作品から影響を受けていると思います。環境問題や食品問題、あとは犯罪系の作品もつい見てしまいます。もちろんアニメや映画も好きなので、話題になったものはチェックしていますが、印象に残っているのは、鋭い問題提起をしていたような作品が多いですね。学校でもそういうテーマに近い授業があるので、友達と『あれ見た?』と話すことも多いです」

動画配信サービスのNEW STANDARDとは?

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男性同士の恋リア『ボーイフレンド』
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