結成20周年イヤーをひた走る9mm Parabellum Bulletが2年ぶり10枚目となるニューアルバム『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』をリリースした。
どこまでも、どこを切り取っても9mm節が冴え渡り、まさに威風堂々と鳴り響いている。
それと同時に、今まで以上に歌がアルバム全体を牽引している印象が強くある。
この20年、無軌道でありながら精緻に構築され、そしてキャッチーな様相をもって爆発するサウンドプロダクション同様に、終末世界における愛をめぐる短編を楽曲ごとに描いてきたという見方もできる菅原卓郎(Vo/Gt)のソングライティングもまた、9mmがその音楽的なアイデンティティを確立するにあたり重要な役割を果たしてきた。
『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』について彼が抱く思いを皮切りに、今あらためて菅原卓郎というソングライターの思考と指針に迫った。(三宅正一)
体験装置としての9mmのあり方
――アルバムがリリースされてから、リスナーの反応も含めて自身の実感としてはどうですか?
菅原卓郎(以下、菅原):基本的にはグッドリアクションですね。グッドリアクションしか見ないというのもあるんですけど(笑)。でも、好意的に聴いてもらっていて嬉しいです。今回のアルバムの印象として、激しい音がレコーディングされていることとは別に、風通しがよくて透明感のある、すごくクリアな9mmだなと個人的に思っているんですけど、聴いた人もおおむねそんなふうに感じている気がします。
――今まで以上に、揺るぎなく歌が牽引しているような印象を受けました。「Fuel On The Fire!!」もインスト曲にもかかわらず、もはや歌が聴こえる感じすらあるなと。
菅原:エンジニアの人と録っている時から話していたのは、その音を使うと決めたフレーズやパートを録ったからには、全部活かして聴こえるようにしたい。でも、だからといってサウンドに歌を埋もれさせたくない、ということで。各々バンドによって歌のハマり具合があると思うんですけど、9mmの場合は歌がバンドに溶け込んでいながらも、くっきり聴こえさせたいというか。ライブで9mmを観た時のような感じになってほしかったので、その狙いが成功しているアルバムかなと思います。自分の声質とか歌い方は、そんなに癖の多くない、言ったらストレートなほうだと思うので。
――記名性はすごくあると思いますけどね。
菅原:なんて言うんだろうなあ。ザラつきとか、そういう方向性ではない声質というか。とはいえ、サウンドはすごく激しかったり、ものすごく歪んでいると感じるものもある。それでも、みんながアルバムを聴いて最後に「クリアなサウンドですね」という印象を持っているのが、面白いなと思いましたね。
――それはミックスの段階ですでに狙いとしてあった。
菅原:前回のアルバムの『TIGHTROPE』が、スモーキーじゃないけど、自分たちの弾いているものとか、叩いているものに対して潜って聴こえるというか。だから、感覚としてはもうちょっと聴かせたかったなと感じる部分があって。それがダークさにも繋がっているから、アルバムとして自分は「これはあの時の正解でしょう」と思うんですけど、今回(『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』)はそれと比べるとしたら、「もうちょっとドラムもベースもギターもクリアに聴かせたい」というのがありました。それが今作の結果に繋がっているのかなと思いますね。“エッジさ”じゃなくて、“エッジがくっきり聴こえる風”にしたいという感じかも。
――卓郎くんの歌に対する矜持というか、自分の歌が担っている役割に対する誇りや自覚がどんどん強くなっている感じがするんですが、自分としてはどうですか?
菅原:役割で言うと、最近気づいたことがあって。まず歌詞を書く時に、デモ音源を聴いて自分が感じた曲の心情や感情と、滝(善充/Gt)が感じている印象を擦り合わせて同じにしておくんです。簡単に言うと、「これは怒っている曲だよね」とか「悲しい曲だよね」「うん、悲しい。それで合ってる」っていう感じで、一致させてから歌詞を書く。でも、その「悲しい」のなかにもいろんな分量があって、「楽しいことがあったけど、それがもう今手元にないことが悲しい」とか「怒ってる場合はなんで怒ってるのか」とか、そういう感情の割合が歌詞のカラーになると思うんです。そういう「じゃあ、この人はこういうことがあって、それを歌っている気持ちなわけね」ということが歌詞の形になる。そうやって作られたものを自分で聴いたりライブで演奏するなかで最近感じるようになったことが、一曲ごとに「こういう感情を体験できますよ」という装置みたいになってきているな、って。そうすると自分の役割が決まってくるじゃないですか。自分の役割は、言葉とか歌で「こういう感情です」ということを説明しながら、それに一体化してもらう役割。
――体感してもらう。
菅原:そうそう、体感してもらう。そのうえで「サウンドってなんだろう?」って考えると、たとえば映画で言うと4Dとか、シートが揺れるとか、そういう役割なのかなと思います。だから、バンドがライブで激しいステージングで演奏しているのも、曲の感情を体験してもらう装置のひとつになっていて。そうやって演奏しないと立ち上がってこないからかな、と。それがバンドに対して自分がよく感じているところなんですよね。
――それは、最近思うようになったこと?
菅原:(前から)こんなふうに思っていたけど、言語化できたのは最近ですね。「映画みたいだね」とか言われることは時々あったんですけど。
――ある種、ずっとシネマティックな感じはありますもんね。
菅原:そうそう。それがもう少し“体験する機械”みたいなものに近いなって思いました。自分が感じているものに寄せて形にするなら、そういう言葉かな。体験装置。
――体験装置、いいですね。
菅原:そんな気がしています。歌詞を書く時は曲を聴きながら、まず設計図みたいなものを書くんですよ。たとえば、真ん中に「悲しい」とか大きな言葉を書いて、そこからシンクツリーみたいな感じで書き足していきます。コンピューターだとそれはあまりできないので、A4の紙に手書きで。そうすると、やっぱり端に書いちゃう言葉って、真ん中のテーマに対して遠い言葉なんですよね。とにかくそれを何枚も書いて、「あ、こういうことか!」ってわかったら(歌詞が)書ける。
――要は、シンクツリーというプロットをまず書いてから始める、ということ?
菅原:そうですね。それでもわからないこともあるんだけど、それを書いて自分で言葉に触発されながら、「どういうことなんだ?」って掘りながら考える感じです。アルバムのなかの曲だと「Domino Domino」の歌詞も「これは一体どういうことなわけ?」って何日か考えて。「“ドミノの曲にする”というモチーフは合っている気がする」と思って、一旦“ドミノ”という言葉は置いておいて。「なんで“ドミノ”なの?」ってずっと自問しながら、「あ、この曲は願い事をドミノにして並べるんだな」と思った時に「ああ、これが作詞だよな」と思ったんですよね。それで願い事をいくつも考えたり、願い事を並べてドミノにした。自分でも「菅原くん、歌詞を書くってこういうことですよ!」って思いましたね、「覚えておきな!」というふうに(笑)。
――ははははは。
菅原:頑張りだけでなんとかしていた時期が結構あったんです。でも、それって結局徹夜するだけなんですよ。そうじゃなくて、書かなきゃいけないものをどんどん見つけていって、「じゃあそれをまず書いてみようぜ」というふうにしていくほうがいいんですよね。悩みたいわけじゃなくて、考えたい。悩むのは無駄な時間、考えるのは必要な時間。そういう感じで分けてます。
――それは、何事においても混同しがちですよね。
菅原:すごく混同しちゃう。だから、「どんな歌詞にしようかな?」という言葉で同じセリフだとしても、悩んでいるのと考えているのとでは全然違うんです。それに気づいてからは、買い物ひとつするのも同じだなと思うようになりました。きっと悩んでいるのは楽しいんですよ、決まらないから。やらなくていいから。「考える」だとやることに対して決めていかなきゃいけない。でも、「考える」ことで途中から快感になってきて、「あー、歌詞ができてきた!」と進むことができる。どんな曲でもそういう時がありますね。
――「悩む」は停滞している快楽と言えるかもしれない。
菅原:そうかも。歌詞を書く時にそれをしないように意識していますね。「この曲が何を言っているのかわからない」となっても、「とりあえずこういう言葉が合う気がする」「じゃあここから進めよう」っていうのを、どの曲でもやります。すんなりと絵がバーンと浮かんで、それをそのまま言葉にすればいいや! ってできたら超ラッキー。それは、曲のクオリティとか強度、あとはどのくらいレコーディングが済んでいるのかにもよります。あと、今タイトルを決めた時の話と繋がっているなと思いました、『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』っていう。
――2曲目の歌詞から取っている。
菅原:そうそうそう。これは、自由について考えて決めたんです。タイトルを決めてから「自由は必要なことだけど、なんで必要なの?」って自分に聞いて。それで思ったことが、本当に自由じゃない状態は選択することさえできない、選択肢を一切奪われている状態ということ。それって、ある意味もう牢獄に入っているみたいなことじゃないですか。
――そうですね。
菅原:そこから抜け出すためには、たとえ「よくない選択肢」と「すごくよくない選択肢」みたいなものからしか選べないとしても、選ぶこと自体が自由だと思っていて。選択肢すらないことが不自由だから、仮にどちらかを選んだとしたら、次の選択肢がもしかしたら「よくない選択肢」と「すごくよくない選択肢」と「あんまりよくない選択肢」って、少しずつ変わっていくかもしれない。そうやって選んでいく一連の動きが「自由」なんじゃないかな、と。何かを選ぶということ自体が自分を作っていくので。だから、選んでいない状態というのは、「可能性が無限に広がっている」とは全然違うことなんじゃないかと思うんです。「いくつも選択肢がある」=「自由」にはならない。もしたとえばだけど、悩んでいる人がいたとして、〈君が君でいるためには自由が必要だろ〉っていうのは、何よりも必要なことでしょう?――そういう意味での「自由」ですね。
――「自由」という言葉はそれほど簡単に使える言葉じゃないことをわかってますよね。
菅原:そうですね。クオリティの高い歌詞を書きたいという気持ちはすごく強くて。歌詞だけでみても仕事をしてくれそうな、強度が高いものというか。でも、その一方で、“ロックンロール”だから整合性を取れていなくても全然いい、という気持ちもあります。曲って始まったら勢いでどんどん前に進んでいくし、「ここちょっと矛盾してるけどいいか!」とか「ノッてるからいいや」ということもある。自分がいつも思っているのは、甲本ヒロトさんが言っていた「歌詞なんて何でもいいんだよ、でも歌詞は超大事」というような意味合いの言葉。それってヒロトさんとマーシーさん(真島昌利)の作ってきた曲を聴いたらめっちゃわかるじゃないですか。
――おっしゃる通りです、っていう歌詞ですもんね。
菅原:自分にも一応そういうDNAがあると思って書いてますね。
――イコール、自分はロックンロールの子どもっていう。
菅原:そうそう。