EXPO2025 “未来を実験する場”のカウントダウン──特集「THE WORLD IN 2025」

PHOTOGRAPH: JUNPEI KATO

大屋根リング

約840年前、平家に焼き討ちされた東大寺を再建する一大プロジェクトが源氏の後押しで始まった。このとき採用され、構造の強固さから日本の建築界を変えるイノべーションとなったのが、柱をくり抜いて開口部に梁を差し込む「貫(ぬき)」の技術だ。

時は流れ2024年。東大寺からほぼ真西に50kmほど行った大阪・夢洲では、貫を使った一大プロジェクトが進む。幅約30m、高さ約20m、周長約2kmの「大屋根リング」は世界最大級の木造建築物。そして、25年に開催される大阪・関西万博の回遊路であり、展望台であり、憩いの場であり、シンボルでもある。

建築家の藤本壮介が手がけた「大屋根リング」は、スギやヒノキ、アカマツを使った集成材と、耐震性を高めるための金属部品でできている。高所での作業を減らすため、柱に梁を差し込んだ109の「ユニット」をあらかじめ地上で用意しておき、それを円形状に組み立てていく施工方法が取られた。木が傷つかないよう足場を組まない配慮をしたり、未加工の木が雨ざらしにならないスケジュールを組んだりと、木材ならではの工夫が施されている。

EXPO2025 “未来を実験する場”のカウントダウン──特集「THE WORLD IN 2025」

PHOTOGRAPH: JUNPEI KATO

null²

落合陽一 | Yoichi Ochiai
メディアアーティスト

周りの風景を反射する建物は、メディアアーティストの落合陽一がプロデュースする「null²」(「ヌルヌル」と読む)。日本人が古くから儀式に使ってきた鏡を全面に張ったパビリオンだ。

使われているのは、パビリオンのためにつくられた特殊な膜材。金属と樹脂を組み合わせた鏡のような外装材だが、膜と呼ばれるだけあって柔軟だ。裏にロボットアームや重低音を響かせるウーファーが組み込まれ、曲げたり伸ばしたり、さらには震わせたりといった動的な変形を起こすことによって、鏡に映り込む周りの風景を大きくゆがませることになる。それこそ、ヌルヌルっと。

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PHOTOGRAPH: JUNPEI KATO

Better Co-Being

宮田裕章 | Hiroaki Miyata
慶應義塾大学教授

そのパビリオンは、雨も風も通す。万博会場中央にある「静けさの森」と溶け合うようにそこにある、宮田裕章の「Better Co-Being」は、既存のパビリオンの概念に当てはまらない。

SANAAが設計したこの建造物には内も外もなく、多様な植物が招かれ、見上げると雲のような天蓋があるだけである。テーマは「共鳴」。人、自然、世界が共に“よりよく”ある未来を探るための場においては、建物は自然と人を断絶してはならない。

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