市役所で働く平凡で真面目な優しい主人公・小森洸人(ひろと/柳楽優弥)と、自閉スペクトラム症(以下、ASD)の弟・美路人(みちと/坂東龍汰)。二人の平穏な日常にある日、「ライオン」と名乗る少年(佐藤大空)がやって来たことで、思わぬ事件に巻き込まれていく――。

「ヒューマン」と「サスペンス」を絶妙なバランスでかけ合わせたTBS金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』が、そのクオリティの高さで注目を集めている。

繊細で緻密な脚本は、『おっさんずラブ』などで知られるベテラン脚本家・徳尾浩司と、連ドラ初挑戦の脚本家・一戸慶乃の共同脚本により、2年半かけて制作されたものだという。

本作の企画者でプロデューサーも務めるのは、TBS火曜ドラマのヒット作『私の家政夫ナギサさん』の企画も手掛けた松本友香さん。

松本さんへのインタビュー後編となる本記事では、松本さんが企画に込めた思いと、異色の脚本家タッグが生まれた経緯について聞いた。

【前編を読む】坂東龍汰を自閉スペクトラム症の子の親が絶賛。『ライオンの隠れ家』松本Pが語る、役づくりの裏側

【中編を読む】柳楽優弥の「俳優としての求心力」。『ライオンの隠れ家』に実力派キャストが揃い踏みした背景

松本友香さん

韓国ドラマのように「ジャンルレス」にしたかった

――本作は脚本開発に2年半ぐらいかかったそうですね。ASDの多様性や虐待・ネグレクトなどの社会問題を描きつつ、「ヒューマン」と「サスペンス」という異なるジャンルを絶妙なバランスで成立させている作品だと思いますが、最初に企画を出した段階ではどういう内容だったのですか。

松本友香P(以下、松本P):最初はヒューマンの要素が強かったんです。私が『人にやさしく』(フジテレビ/2002年)などのドラマが好きで、入社3年目にプロデュースしたドラマも『3人のパパ』(2017年)というヒューマン寄りの作品だったんですが、「金曜ドラマでやるならもう少しサスペンスの要素もあったほうが良いんじゃないか」というフィードバックがあり、企画書を作り直して提出したら通ったという流れでした。

『ライオンの隠れ家』第5話より (C)TBS

 

――日本のドラマは「サスペンス」「ヒューマン」「社会派」「ラブコメ」など、ジャンルで分かれている作品が多いですよね。それは観ている側としてはわかりやすく、作り手も作りやすいと思うんですが、例えば韓国ドラマなどを観ると、ラブコメでも背景に必ず家族や社会が描かれている。そこは韓国ドラマの成熟度の高さだと思うのですが、『ライオンの隠れ家』はそれに近い物語の奥行きがあります。

松本P:実は私も韓国ドラマが大好きなんですよ。『ムービング』(2023年/ディズニープラス)とか、全くジャンルがないじゃないですか。SFであり、バトルものであり、ラブストーリーであり、親子ものであり、みたいな。ああいうジャンルレスのドラマが羨ましいなとずっと思っていました。

それで今回、サスペンスの要素を入れることになったとき、難しいと思いつつも、「もはや何ジャンルでもなく作れるな」と思ったところもあって。ヒューマンサスペンスという打ち出しは作りましたが、だんだんいろんな面を見せていけたら面白いなと。

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