ランウェイで目にする服の多くが雑誌の写真撮影やセレブたちが着用するためのサンプルとして存在し、商業化されることも、製造されることも、店頭に並ぶこともないというのはよく知られた事実だ。しかし、エストニア生まれのジョアンナ パーヴ(JOHANNA PARV)は、ショーというクリエイティブな場のためだけにデザインするデザイナーではない。
彼女が2020年にセントラル セント マーチンズ修士課程を卒業する際に発表したコレクションは、ロンドンの街を自転車で通勤する女性たちからインスピレーションを得たもので、バックパックやトートバッグにジム用品を詰め込んだり、オフィスではヒールに履き替えたりと、一日を通してさまざまなシーンに対応する女性像を描いた。
そして今年9月、デビューショーを控えた2週間ほど前に東ロンドンで開催されたパーヴのパーティーでは、またしても女性サイクリストたちの姿があった。ハンズフリーに持ち運べるシグネチャーの「Action」バッグから通気性のいいパラシュートパンツまで、とことん使い倒せる機能的かつ洗練されたアイテムの数々が、アクティブな女性たちからすでに支持を集めていることは明らかだった。
忙しない都会生活を駆け抜けるために
ジョアンナ パーヴ 2025年春夏コレクションより。
Photo: ©Maja Smiejkowska/ Chris Yates Media
ジョアンナ パーヴ 2025年春夏コレクションより。
Photo: ©Maja Smiejkowska/ Chris Yates Media
若手デザイナーによる合同ファッションショー、ファッション イーストで2シーズンにわたり成功を収めた後、2025年春夏ロンドン・ファッション・ウィークで正式にデビューを飾った彼女はシティスタイルにさらなる磨きをかけ、ウールやリネンといった天然繊維を使ったミニマルなサマースーツを発表した。テクノリネンで仕立てた白のジャケットとミニスカートには通気性を高めるファスナーがあしらわれ、仕上げには撥水加工が施されているほか、ウールナイロンのリップストップ生地はクリーム色のジャケットやショート丈のスカートに使われ、人間工学に基づいてデザインされている。ボディにぴったりとフィットするベストには、折りたたんだ薄手のコートを収納できるバックポケットがあり、トップの肩にはバックパックやハンドバッグのストラップが滑らないようシリコン製ドットのアクセントが配されていた。「グラフィックパターンを私流にアレンジしたものですが、そこには機能性があります」とパーヴは説明する。
プレビューでは、「私にとって、ロンドンでの生活はトレイルランニングのようなものです」と笑みを浮かべながら語っていたパーヴ。会社勤めのエンジニアの娘であり、自身もバルト三国の元中距離ランナーである彼女が、舗装された舗道や地下鉄のホーム、公園でのランチタイム、さらにはアフターファイブに対応する服装に着目したのは自然な流れだったのだろう。
ジョアンナ パーヴ 2025年春夏コレクションより。
Photo: ©Maja Smiejkowska/ Chris Yates Media
ジョアンナ パーヴ 2025年春夏コレクションより。
Photo: ©Maja Smiejkowska/ Chris Yates Media
また、今回パーヴが特に強調させたかったのは、服を変化させる小さな技術的ディテールの数々。DJのミミ・シューが手がける自転車や人の呼吸、道路を行き交う車の音がループするサウンドスケープに合わせて、モデルたちはバッグのストラップを調節したり、袖のファスナーを開けたりといったパフォーマンスを行った。この演出について、「ポケットに手を入れるような、何気ない仕草にある美しさを映し出したかった」と彼女は言う。