朗読 野村胡堂 銭形平次捕物控 猫の首環[挿絵付][青空文庫]
銭形平治物 控え野村 古藤猫の 首輪 1人の心というものは恐ろしいものですね 親分八五が顎を撫でながらいきなりそんな ことを言うの ですあれ もを考えるんだね柏屋の目を通ると店先の 大福餅をつまみ食いしたくなったり酒屋の 目を通るたびに鼻をヒクヒクさせるのも 人間の心の恐ろしさだというわけ だろうよしてくださいよ 親分足しのことじゃありません よ兵治の鼻の先で八郎は無償にでっかい手 を振りました そうだろうともおめえの心なんてものは ビードロ工で見通しだよ腹が減るとおかて ばかり覗くしお小遣いがなくなると俺の懐 を気にする しもうたくさんあしの言うのは浅草安部川 町の仏コ屋と言われた田屋まもが夕べ居所 で殺されていたと聞いたら親分だって変な 心持ちになるだろうとということです よ八五はようやく本筋に入りまし たへえあの評判のいい人が ね俺は会ったこともないが昔は浅草で 鳴らした人だと言うじゃない か少し一徹もではあったがギリがくて親切 で評判のいい人でした よそれを虫のように殺すなんかひどいじゃ ありませんか 発砲から人気のあった真門を殺すほど恨ん でいたものがあると思うとあし世の中が嫌 になりました よ八五郎に出家統制されると俺も困るし 差し当たりあの子が泣く だろう人助けのため安部川町へ出かけて みるとしよう かそうしてくださいよ親分が乗り出して 下種人を縛ってくださるとあの子が喜び ます よ誰だおめえの言うあの子 はたやまいもの娘おりと言って16花の つぼみのような可愛らしい娘です よ俺の言うあの子はニアのおかん子さ冗談 言っちゃいけませんおめえには少しお食 すぎるか な無駄を言いながら手早く支度をして2人 は5月の日の照りつける町へ出ました 道道八郎は田屋のことを色々説明してくれ ます先代のあじ真門は仏こやと言われた 評判のいい人でしたが10年前に連れ合い に先立たれ45年前から中風で足腰の自由 を失い2年前からは寝たっきりで家は子の 助に譲りに不なく幼女をしているという こと です当主の矢之助は真門に子がなかった ための夫婦用紙で嫁の大船は東園の もの矢之助は42の 役女将のお船は38の働き盛り 多数の雇い人を顎の先で使いこなすといっ た口八鳥の除です 真門の本当の娘のおりは矢之助お船の夫婦 用紙が入ってからできた子で今更どうにも ならない存在でし たそれだけに真門の口愛が深く分けても 母親の死んだ後はかざしの花のように大事 に育てまし た家族はその4人だけ あとは番頭の与が48の白ネズミ手代の 行末は10の 子親は有名な太鼓の高座郎ですがせがれ まで道楽商売は見習わせたくないというの でかつての旦那筋仙台真門に頼んで片の 商人に仕立てるつもりの年期暴行 ですあは男のと下女のお梅 だけ米つきの男たちは大概冬場だけ国元 から稼ぎに出てくるえちご者が多く大市の 仕事場に寝起きして夏場は留守番2人だけ になってしまい ます八五郎の説明が終わる頃2人は ようやく安倍川町に着きました 22人を迎えてくれたのは女将のお船でし た38という大島ですが眉の後の青青とし た目の大きいかなりの気量で口の大きいの が気になりますがその代わり弁説爽やかで 男まりのやりらしく見え ますまあはご親分ご苦労様で銭型の親分 さんもご一緒ですかそれはまあ飛んだお 世話様 でなかなか人をそらしませ んお銭形の親分さんお手数をかけ ます後ろから顔を出したのは番頭のよでし た 四78の米なれた男で自分の都合さえ 良ければどっちへでもついていきそうな 人間 です奥へ通るとさすがに大下で親類演者や 近所の州が立て込んでいることと思うと 大違いで東台になって人付き合いが悪く 遠い親類や町内の人たちもあまり寄りつか なくなったと後で人のに聞きまし た隠居の真門の病魔というのは北側の渡り 廊下を隔てた離れで6畳と余畳半の 二間その奥の6畳に夕べの血を清めたまま の死骸を新しい布団の上に横たえてあり ます畳建具から ちどり簡素なもので部屋の中がむっ汗臭い のも田屋の大新相の隠居部屋に似合わぬ こと です市街の世話をしていたらしい容子の 党首矢之助は平治と八五の顔を見ると少し 遠のいて挨拶しまし た四十にというにしては子供っぽいところ のある丸顔で一応 に見えますがこんなのは案外しかな魂の 所有者であることは色々の場合に兵治は 経験しており ますどこの裾の方に小さくなっているのは 殺された真門の1人娘おりと八五郎の説明 でわかりまし た八五が説明してくれなければ全くわから なかったかもしれませ ん16娘のううしさも恐ろしい悲と絶望に 打ちししがれて誠に見る影もない姿です が挨拶する時ふあげた顔は涙に濡れて晴 れっぽくさへなっているのに何とも言え ない可愛らしさでし たこれは世に言う美人ではなく日陰に咲い た虫食いボタンののつぼみのような一種の 火憐さと弱々しさとそして若さとの異様な 金剛で人の心に悔いるいらしさを持って いる顔というべき でしょうみは思いの他よく小綺麗な人へ などを着ておりますがそれがさっぱりした もめんもでもあることか畳の目立つ着物で 下着の破れや帯の汚れが目立つのも妙な 浅ましさ です市街は一応清めてありますが髭もさき も伸び 放題体も汚れてこざっぱりした根巻きと花 調和が取れませ ん60というにしてはひどい衰弱で骨と川 ばかり昔は立派であったことと思う人品も 癒しさとをげしさに人の目に不気味に 焼きつき ます傷は右の喉笛へ1箇所だけ薄葉の鋭い 刃物で一気に軽動脈を書き切られたもの でしょうおそらく声ぐらいは立てたにして も人を呼ぶ力もなくこ切れたのかもしれ ませ ん夕べの様子は 平二は言葉少なに有地矢之助に尋ねまし た夕べ5つ半少し前だったと思います棚を 閉めて方向人たちはそれぞれ自分の部屋に 引き取りかなはお勝手にいたようで私は2 階の部屋で進んでおりまし たご存知の通り暑い晩であっちもこっちも 開け放したまま で矢之助は息を継ぎまし た平二は黙って先を促しまし た下女の大梅が陰居所の雨戸を閉める つもりで渡り廊下まで来ると部屋の中から 飛び出した猫が暗い中をきいのようになっ て庭へ飛び降り垣根の方へ逃げていった そう ですなんかたごでないような気がして奥の 畳へ入ると中はの海で親父はまだ息があっ たそう ですなんか言わなかったのか なさあそこまでは分かりませ ん大は陰居所から飛び出して騒ぎ立てたの で宇中のものはみんな集まってきまし た私も2階から降りる時あんまり急いで 踏み外したりしましたが何怪我は大した ことじゃありませ んそれから 医者を呼んで手当てをしましたがもう 手遅れ で部屋は閉めてあったことだろう な窓もあもすかしてありました入ろうと 思えばどこからでも入れたわけ で刃物 はさやは縁側に落ちておりましたが中身は ずっと離れた池垣のところに放り出して ありました今朝になって松が見つけたそう で 見覚えのある刃物 か父親の持ち物で隣の部屋のヨダスに入っ ていたはずです細みの相口でこれです が矢之助が振り返ると若い手代の松は 手ぬいに包んだ相口を隣の部屋から持って きてそっと兵士の前へ滑らせ ますこの松というのは 太鼓光三郎の子でいかにも素朴な真面目な 男ジクの年にしては筋骨もたくましくぬの 匂いのふんぷんとした米屋の若臭らしい高 成年でし た合口は細くて長くひどくキシなものでし たがそれだけ不気味に鋭さを持っており ます は自分でこれは取り出せなかったの か長い間の患いで足腰は全く立たず手と口 だけ丈夫なのがかって悔しいと言っており まし た隣の部屋のタスのものを自分では出せる はずもありませ んアジ矢之助はしっかとこういうのです 3平二は八五に近所の様子を見せながら 自分は部屋の配置家の作りを見てくもの 侵入経路を調べまし た離れは全く独立したもので庭からは雨戸 さえ空いていればどこからでも入れますが 手と口だけは達しであったという隠居の前 まだ明のある酔いのうに押し込んで声も 立てさせずに正面から相口で刺すという ことはちょっと考えられないことであり くもはやはり家の中のものではないかと 兵治が考えたのも無理のないこと です他人からは評判の良いものが案外家の 中にネタバを合わせる敵を持っていること が あり孫もの命を取ったのもそんな関係で 思いもよらぬ身近のものかもしれないの です小屋はかなり堂々たる2階建てで田口 と裏と2箇所にはしご団があり裏のはしご 団は離れのすぐ前から有地矢之助の部屋に 通じ棚のはしご団は棚の上からみきの方向 人たちの部屋に通じております この棚のはしご団から離れへ来るためには 2階の主の部屋の前を通るか下のお手に いるおの目かお勝手のそばの三条にいた はずの下女のお梅の目に触れなければなら ず酔いのうちに離れに侵入してあの喉笛を 刺すことは方向人たち番頭のよと手代の 行末と下男の立地にはまず不可能なことと 見なければなりませ んすると犯人を家の中のものと限定すれば あじにして容姿にあたる矢之助とその女房 のお船下女のお梅の3人のうちの1人と いうことになり ます人当たり家の中を見た兵治は庭を つっかけて狭い庭にお勝手の方へ回ってみ 見まし た近頃は雨が多い上に庭と言っても建物と 板の間の少しばかりの空き地で日に疎い ためか歩けばいちいち刻印を押したように 足跡がつくのでどんな神辺深しなくせ者で も外から忍び込んで隠居の寝ている離れへ 足跡を残さずに近寄る工夫はありません おやそこで何をしているんだあれ私か ね平二に声をかけられてふと顔をあげたの は下女のお梅でし た年は 28三浦から来た出戻りの女でよく働く 正直者だとは後で聞いたこと です猫のは珍し なでも血だらけだよかわいそうにご委居様 が殺されているのを見てびっくりしたこん でしょう首輪も何も振り落として夕べから どけへ行ったか姿も見せなかっただ よ白い大きい猫でし たお梅はたいで示した雑巾でせっせとその 雪のような毛並を汚した血を吹いてやっ てるのです その猫はおめえによく慣れている様子だね よく慣れていますだおそろしく人見知りを する猫でめったに人のそばへはよらねえが ご委居様とお嬢様と私には良くなれて打っ ても叩いても甘えて喉を鳴らして手に負え ねえだどれちょっと見せて くれ平二はたいのそばに寄って手を出すと 猫は立ちまち背を丸くして 梅の手をくぐり抜けたと見るや疾風の ごとく逃げ去ってしまったの ですそれねおめえ様も猫にはすかれねえだ まあいい猫には嫌われてもおめえに嫌われ なきゃところでおめえが夕べ五陰居の殺さ れているのを見つけた時のことをもう少し 詳しく話してくれない か詳しくなんか話しよはないだよ最も五陰 居さんが私の顔を見ると待ってくれ五陰居 はとの上に仰向けに寝ていたのかいえ起っ て布団に持たれていましただよその辺り いっぱいの血で私が思わず大きな声を出す と物でこえたような目でじっと中を睨み ながら矢之助矢之助と2度ばかり旦那様の 名前を言ったようだ がそれは本当か はねえだ旦那様には言わなかった けれど一てこの家の中にはゴタゴタは なかったのか揉め事とか喧嘩とかそんな こと私は知りまし ねご委居とアの中はあんまりいいとは言え ねえ けれど大梅は急に口をつんでしまいまし た自分の言い過ぎに気がついたのでしょう 4棚へ回ると番頭の与と手代の松下男の 立地が23の近所の州と何やらひそひそと 語り合っておりまし た今朝相口を拾ったのはどの辺りだ教えて くれ 平二は松を呼び出して聞く とこっちです が松は先に立って案内しまし た生まれはどうあろうともなんとなく 小気味のいい青年 です松が兵治を案内して指さしてくれたの はお勝手に近い池垣の袖のところでそこは 日当たりがいいせいか土がよく乾いて足跡 らしいものもありませ んここから隠居所までは主屋の角を1つ 回らなければならずくもはうっかりここ まで刃物を持ってきて気がついて捨てたか または取り落としたものかは分かりませ んところでこの家は揉め事があるようだが おめえはどう思う 平二は相口にこせてここまで行末を 誘い出したのはそんなことが聞きたいため でし た私は何にも分かりませんでもお嬢さんが かわいそう でそれはどういうわけ だもみさんや稽古事などはお呼びもつか ないことですが田原屋の一粒種ですから あんなに厳しくしつけなくったっていいと 思いますよ 女将さんが朝から晩までしつけしつけと 言って箸の上げ下ろしまでやかましく行っ た上まるで下女同様に働かされております よ松は若さの義父に燃えてついアジフ妻の 避難になるのでし た夕べおはどこにいた棚会でした番頭さん とたき丼と一緒で よしよしそれぐらいのこと で平二は行末をたえ返して庭から縁側の方 へ行くと正子の影からこっちを覗いている 白い顔がハっとしたように引っ込んで しまいまし た娘のお龍だったことは後に残ったおかげ の優しさでもよくわかります 番頭のよは履行と愚鈍と自由自在に 使い分けるたちの人間で兵治に捕まっての 話もぬらりくらりと一向に拉致が飽きませ ん五陰鏡を恨むものとんでもないそんな 人間はあるはずもございませんアルジ夫婦 とご委居様の中ですかそれはもう旗の見目 も羨ましいような親子の間柄で あなどとよくもこうそそらしいことが 言えるかと思うほど です下男の立地は22さたくましく正直 そうな男ですがかさから来たばかりで何に も知らず平治の調べもこれまででまず1段 ということになりまし たとちょうど近所を一回りした八五が 持ち前の気軽さと巧みな口取りで思いの他 材料を集めてきてくれたの です驚きましたよ親分田屋というものは 遠くで見たのと違って近くの評判は散々 です ね何が散々なん だ評判の良かったのは殺された仙台の孫で 今のあ矢之助と来たら夫婦用紙のくせに 仙台が少し中気の君だからと言って仕込み 隠居をさせ足腰が立たなくなってからは あの隠居部屋へ閉じ込めて3度の食い物も 当てがいぶち飯が1杯に味噌汁少々漬け物 が2切れぼも正月もそれでおとしたという から手したいじめよじゃありません か田屋の仙台を誰が って平二は身内に義訓の湧き上がる心持ち でし た陽子の党首矢之助ですよ最も親不幸は 夫婦の相談ずくで一方だけということは ありませんごとにあの神のお船と来たら鬼 のような女で面はちょっと踏めますが亭主 を引きずり回して身動きもできない親から 方向人たちにまでつく当たるそうですよ 下面ニ菩薩内心にやしというんですね女の 白場なのは恐ろしいもんです ね時々は自分で隠居所へ前を運ぶことも あるが月に1度腐った干物でもつつけると 離れの陰居所へへる目にあの渡り廊下での ライのを呼んで投げてやり隠居へは空っぽ の皿だけ見せるそうです よ年寄りには脂っこいものは毒だと言うん だそうで しつけしつけで先代の一人娘おりさんを いじめ抜くのと同じ手です ねあの様子ではおりさんもいつどんなこと で食い合わせか中毒でころりと死ぬかも しれないと近所中の噂です よ隠居は毎日泣いていたそうですが誰にも 合わせないから愚痴のこぼし用もなかった でしょうその間に娘のおりさんが下女と 同じにコキ使われ下女並の食べ物を当て がわれながら自分のおかずをそっと隠して 窓から父親の孫もに貢いでやるのを近所の 州が見て涙をこぼしたそう ですそれも一度おに見つかってひどい 仕置きを受けたというのは腹が立つじゃ ありませんか 親分よし分かったおめえが泣くのも最もだ が次を 話せあの娘のお龍は誰が何と言っても田屋 の一粒種だから向こでももらってこの新書 を引き渡すのが本当でしょうそれを党首の 矢之助とお船の夫婦が他人のくせに大きな つをして隠居と娘を邪魔者にするのは ぶち殺してもやりたいようだとこれも近所 の州の噂です よ変なことになるぜ蜂それでは矢之助と船 が殺されるわけになるが隠居が殺されるの は筋が立たないじゃない か人気を邪魔にしたんじゃありません か邪魔かは知らないがそんな危ない橋を 渡って足腰の立たないとしおりを殺すのは 無三頭にすぎるようだ が平二はなかなか八五の説に賛成してくれ ませ んところでもう1つ面白い話があります よ面白い 話あの若い手代の松は子の郎のと言いまし たねうん聞いたよ高郎は太鼓持ちのくせに 妙な男でたまたまいいせがれが生まれたの は神様の授かり物だからこれに道楽家業を 見習わせちゃ悪いと昔世話になった田屋の 衛門旦那に頼み小さいうちからデチ防を 出したんだと言いましたね うんその松は関心な男で働き者で正直だが ばかりは別と見えていつの間にやら娘の お龍と年頃になっ た本当かえそれは18と16だ ぜ18と16でも男と女に違いはありませ んあしだって身に覚えはありますが妖精 合い バカバカしいともかくもお安くないんだっ てこれも近所の週の噂で へ八五は1人越に行っており 18と16の小舎が嬉しくてたまらなかっ たの でしょう 5平二はそれっり安倍川町を引き上げて しまいまし た下種人が花の先へぶら下がっているよう な気がして八五はひどく悔しがりますが平 が手を下さないのではどうすることもでき ませ ん田屋を出る時下女のお梅と下男の立地に 何やら囁きまし た猫の首輪をどこへ落としてきたか 見つかったらそっとしまっておいでくれと 言ったようですが八五にはその意味が少し もわかりません あくる日八五は相変わらずげっぷを先に 立てて飛んできまし たさあ底辺ミノのマ市長や分が乗り出して 田やあじ矢之助を縛っていきました ぜそうかやりそうなことだ な平二はあえて驚く色もありませ んなんでもみの親分のとろへや孫も殺しの 下種人は陽子の矢之助に違いないという 手紙を投げ込んだものがあったそう でつまらないことをするやつがあるんだな 放っておけよいいんですか親分あんなに骨 を折って手柄をみのあの満し親分にさらわ れ ちゃいいってことよ23日経てば矢之助は 戻ってくる よ平二の予言は見事に的中しました 矢之助は3日目に返され田屋は何事も なかったように中の札を剥がして売を始め たの ですそれから56日経ったある日の ことごめんください親分さんにちょいとめ にかかって申し上げたいことがありますが え私は田原屋の手代松の父親小三郎で ございますが と大きな坊主頭が兵治の前へ恐る恐る現れ たのでし たちょうど晩の前を引いて八五と 差し向かいのまま未練らしくとっくりに 残ったかざまを絞っているところでし たああ師匠が俺は遊びに縁が遠くて滅多に 会う折りもないが師匠の名前だけはよく 知っているよ 平治に声をかけられ て恐れいり ますなどと光三郎は神妙らしく額で畳を 吐くの ですところでなんだい用事というの は私は田原屋の大旦那亡くなった孫門様に 海山のご音を受けており ます1つ1つは申し上げられませんが その1つ2つを拾って申します と私の亡くなった女房は吉原の中心の店の 心臓で長袖と申しまし た若い盛りで私と飛んで落っこちになり 死ぬの生きるのという騒ぎをいたしました が田原屋の大旦那様がかわいそうだと おっしゃって長袖を受け出して私と沿わせ てくださいまし たその中に生まれたのがあの松で 平治は黙って聞いており ます女房は7年前に亡くなり男で1つで 育てかねてせがれの行末は田屋にデ暴行に 出しまし たそれから1年過ぎ私は悪い客に騙されて 危うく防犯の一味に引きずりこまれる ところを大金を出して救ってくだすったの もごも旦那でおかげでは首がつながりまし たそんな大音のある旦那様が人手にかかっ て亡くなられたのを黙ってみていては私は 畜生よりも劣った人間になり ます で田原屋のご委教昔の大旦那様を殺した 下種人は私の目で見ても分かっており ます銭形の親分さんにそれが分からない はずはございませ んこんなことを申し上げたらさぞを腹も 立つことでしょうがどうしてあの下種人を 縛ってくださらないか私にはどうしても わけが分かりませ ん証拠がないんだよ 師匠勢いこんで畳みかける光郎の英法を 平二は軽くいなしまし た証拠はたくさんございます相口のしまっ てある場所を知ってるのは若と女将の2人 だけあの時2階から人に知られずにそっと 降りて離れへ入れるのは若だけ相口は2階 から投げるとちょうど池垣のあの辺りへ 落ち ます下女の梅が飛び込んだ時ご委居様は まだ息があって矢之助矢之助と若の名を おっしゃったと言い ますご委居様は目も口もお手もたした富由 はなかったのに足だけは富由で随分容子ご 夫婦に迷惑が邪魔がられておりましたご 隠居様さえなくなればあとはお嬢様1人 田屋は若ご夫婦の自由になり ますそれでも証拠はないとおっしゃる でしょうか親分 さん光三郎は畳を叩かぬばかり平治に 詰め寄るのは何としたこと でしょうよしよしもう一度考えて みようところで師匠のせがれの行末はどう しているん だお嬢さんのお龍を庇いすぎて田屋から 追い出されたんじゃない かどうして親分さんはそれ をおめえの目の色にちゃんと出ている よ恐れ入りまし た行末は大したちりもないに南癖をつけ られて6年越し方向をした田屋を追い出さ れまし た昨日のことでございます かわいそうにお嬢様はこの先どんなことに なりますことか見張ってやるものもござい ませ んおめえの言うのもよくわかるがそれだけ のことで人を縛るわけにはいかないんだ よ証拠と言って何が不足なんでしょう親分 さん私はこの通り育児のない芸人ですが これをしろとおっしゃれば口はったいよう ですが秘密の中へでも飛び込んで真門様の 敵がうちとござい ます不足なものは猫の首輪だよ赤い小切を くけて小さい鈴を下げた 首輪そんなものをご冗談でしょう 親分光三郎は一概に笑いのめしますが平二 の顔は真面目に引き締まってほぐれそうも ありません 6その足で太鼓の光三郎は愛嬌家業柄 らしくもなく坊主頭を降り立ちて田屋に 怒鳴り込みアルジー矢之助と下男の立地に つまみ出され下駄で打ち据えるて額に怪我 をしたという話は明人下の兵にも聞こえ ましたがが大田に野大子不が怒鳴り込みと いうのが土台間違った話でこれはどこへ 訴えてたところで取り上げてくれる通りも ありませ ん事件はそれっに2日3日と経って5月も ようやく味日近くなりまし たある日八郎が今度こそは両手にちり ながら疾風のごとく飛んできたの です何があったんだ蜂喧嘩か家事か借金 取り かやられましたよ おぶん八五は行跡切ってしばらくは後が 続きませ ん何がやられたん だ田屋の狼あの内心ニが2階へ上がった ところを相口で人 えぐり死んだか豪が深いから死にはしませ んほんのカ傷で首筋を引っ掻いただけです が騒ぎが大きいから安部川長重幼虫をかけ られたほどの騒動です よくもは守備よく逃げたそうで守備よく 逃げたというやつがあるもん か味に近くて月がないというのはなんと いうありい店様のおしか物は2階から 飛び降りて路地の闇に姿を隠してしまった そう で刃物はなかったのかそんなまけなものは 残しはしませんよあれはかいたちですね あんなことを言い やがる平治も放ってもおけず安倍川町まで 出かけましたが女将の傷があまりにも 軽かったのと物の残したもは1つもなく内 中のものも2人3人ずつ固まっていたので 疑い用は少しもありませ ん父親がやられたのと同じ手口です ね矢之助はうさんらしく首をひねりますが そうかと言って誰を疑いようもなかったの です平二はその帰り長の太鼓郎の長屋を 覗きまし た三郎は仕事のことで すせがれの行末は田屋から追い出された ものの行場もなくくすぶっており ます夕べおめえはどこにいたん だこの家に降りましたよ親父と2人1杯 飲んで酔いのうちは愚痴になり4つ前に寝 ましたが犬が吠えてしばらく寝つけなくて 弱りました よなんか変わったことでもあったん で松の軽減な顔には何の駆け引きがあろう とも思えなかったの ですそこを出て明人下の方へ物を考え ながら行くと23頂のところで太鼓の 光三郎に旗と会いました おや銭形の親分いいところでお目にかかり ましたちょうど明人下の親分さんのお家 まで行こうと思っていたところ で高座郎はひどく上機嫌 ですなんだ師匠急に用事でもあるのかなに 用事ってほどじゃありませんが1人で両院 を下げちゃもったいないと思いまして ね田屋の神が物に刺されて引っかきほどの 傷をこらえたんですってね惜しいことに くもの手元が狂ったんです ね何を言うんだ師匠田屋の女神が殺され なかったのが惜しいというのかととんでも ないとんだ災難だったという話 でところで師匠は夕べどこにいたんだ私 じゃございませんよ田屋の女を引っ掻いた のはそうだろうとも念のために聞いておく んだ よせがれと2人1杯飲んで酔いのうちは 愚痴になり4つ前に寝てしまいましたが犬 が吠えてしばらく寝つけなくて終わりまし たよそれっきりで へ高座郎の言い訳はせがれの行末と不折を 合わせております 7それからまたいか田屋の事件は平二が 最後の段を下す前に重大な破局へ落ち込ん でしまったの です今度は八五の中心が飛んでくる前に 浅草安倍川町の現場から土地のしぴきが 飛んできたのはまだ夜明け前の暗い自分 でした ほやぶ安倍川町の田屋のあじ矢之助が殺さ れました よそれ は平二も事件の急発展にひどく驚いた様子 ですすぐ来てくださいご険しは明るくなっ てからでしょうがともかく親分 へよしすぐ行くが向こう柳原の八五にも 知らせてくれ後から来るように と平二は薄暗い道を拾って駆け出したこと は言うまでもありませ ん隠居孫もの殺された時と違って未名の 田屋は大変な騒ぎ ですほやぶさん私は もう平二の顔を見て飛んで出たのはおのお 船でし たどうしたことです女将さん何が何やら 少しも分かりません夕べ棚でちいをして 遅くまで仕事をしていた主人が4つ半頃棚 を引き上げて2階へ来るつもりだったん でしょうはしご団の下まで来ていきなり 刺された様子 で女将はごくりと片を飲んで続けるのです 騒ぎを聞いて駆けつけた時はもう虫の息 でしたくもはもう姿もありませんうち中の 大騒動になってお医者も呼びましたが 間に合わ ず女はただしどろもどろに続け ますとにかく仏様 に平二は番頭のよを促して市街を収めて ある部屋に行ってみまし たアジの死骸はその殺されたはしご団の下 の八条に収めてありますが傷は隠居の時と 違って後ろからひ つき貝殻骨の下をやられたもので真の像を 破った らしくおそらく声も立てずに死んだこと でしょう刃物はそれもありませんくもは 最初から忍び込んでいた様子で私どもが 駆けつけた時はどこへ潜ったか影も形も ありませんでし た暑い晩で雨戸は1枚開けたままでどこ からでも逃げられたこと でしょう今朝になってから庭も見ましたが よく乾いていて足跡も見つかりませ ん番頭の説明を待つまでもなくこの事件の 難しさは平治にもよくわかります その時駆けつけた八五にそっと囁いて 門前町の光三郎のうを覗かせると間もなく 戻ってき て松1人ぼんやりしていますよ親父の高座 は席書の手方まで用意して3日目にお伊勢 様へ出かけたようで今頃は小田原かななど と呑気なことを言っていまし た仕方があるまいところで下しの大梅と 下男の地を呼んで くれ明るくなった庭縁側に腰をかけると どこかでほととぎすの泣くのが聞こえて 今日も暑くなりそうな鱗雲が朝の空に小金 色に漂うの です え大梅とたきが来ました が八五に呼び出されて下女の大梅と下男の 滝は軽減な顔を庭先に揃えまし たおめえたちに頼んでおいたはずだが猫の 首輪は見つかった か平治の問いはこの場合いかにものんびり しており ます昨日の夕方裏の池垣の外のドブを掃除 していてようやく見つけました よそれは男の滝でし たどれ どれあんまりひどく汚れているから ちょいと洗っておきましたがまだよく乾か ないかもしれませ んそう言ってたきが手ぬいに包んでいたの をほいて兵士の前へなじりの赤い首輪を 出しまし たちりめんらしいこぎれでくけた猫の首は 小さい鈴ついたまですがどうしたことか首 の上に当たる部分が刃物で切ったように 見事にしかもまっすぐに切れているの です分かったよ は平二の声は思わず大きくなりまし た何が分かったんです ウブご居の門は人に殺されたのではな 自分で喉をついて死んだん だそんなバカなことが ウブ八郎はあまりのことに親分をバ扱いに してしまいまし たみんなをここに集めてくれ俺は言って 聞かせることが ある待ってください 親分八五は飛んでいくと女の船娘のお板頭 のよを始め内のものを縁側の前ちょうど 最初の夏の朝日を浴びる辺りに立たせまし た後ろには部屋の少女を開けたままアジ 矢之助の死骸があり平二は縁側に腰をかけ てちょうどその間に挟まった形になって おります 8ご隠居の真門は死ぬ気になったどうして そんな気になったかみんなは覚えが あろうともかくも自分の命を自分で立つき になったが同じ死ぬなら恨みのあるものに 思い知らせてあくばそのものを下主人に 仕立ててやりたいと思った 平二の話の物々しさに庭に立った人たちは 思わず死因となってしまい ます動かぬ体を動かし大骨折りで次の間に 張って行きタンスから相口を取り出した こと だろうそれを布団の下に隠して折りを待っ たが良い檻がすぐやってき た普段可愛がっていた白猫だ 五陰居はその白猫が良く慣れているので膝 の上か懐の中で怪しながら相口で自分の 喉笛をかき切り恐ろしい苦痛をえて血 だらけの相口を猫の首に巻いてある輪に 挟んだに違いある まい猫は血だらけになって驚いて逃げ たそれを渡り廊下で見たのは女のだがもう 暗くなっていたのでその猫が相口を背負っ ているとは気がつかなかったこと だろう五陰居は間もなく死んだが猫は相口 を背負って池垣のところまで逃げ出し邪魔 になるから無償に首を振ったこと だろう首輪に当たるところはちょうど相口 の元の方の刃だあの相口はよく切れるから 首輪を切って下へ落ち た首輪はその弾みで池垣の隙間から向こう のどに落ち血に濡れた上鈴がついている から泥水の中に潜ったこと だろうさやは自害をする目に縁側に放っ たこれで仕事は見事に 出来上がりアジ矢之助は下種人の疑いを 一応受けたわけだが色々のことから俺は 矢之助を下主人でないと思っ た辺りの様子は親を殺せばすぐ分かるよう になっていたし放っておいてもご陰居の命 は長くは ない明りのある部屋で中の悪いやな親を 正面から物を言わさずに突きこせるわけも ないが猫の首輪が見つからないので俺は何 とも言えなかった では私を継いたり私の主人を殺したのは誰 でしょう 親分将を船の声が激しく抗議するの ですそれも分かっているつもりだ蜂あの男 を 追っかける平二が指したのはみんなの後ろ に立って黙って聞いていた松の姿でし たこの時松は庭を出て安倍川町の往来の方 へ小走に走っていくの です行末は引き戻されましたがそれはアジ 助を殺し女将を船をさした物でないことは すぐ わかり平のこの処置は一応八五までも変に 思わせましたが あくる日太鼓の高座郎の水子体が両国の下 に浮いて何もかも分明しまし た光三郎行末親子の口が合いすぎるのが 平治の疑いの因で田屋のお船をさしたのは 行末でなければ高座郎の仕業と剣闘を つけ続いておせまりに行ったはずの光郎が が江戸の町に身を潜めて矢之助を殺した ことも平二は簡単に見抜いてしまったの です平二は高座郎をおびき出すために せがれの行末をおとりにしまし た卑怯なやり方で日頃の平治の好まない ことですが今となっては高座郎を おびき出す手は他にありそうもないのです 小三郎はリゴレットのように小盆のでし た自分の一生を犠牲にしてこも立派に育て た背の松を助けるために衣装を残して大川 へ飛び込んでしまったの ですそれから田屋の親類たちが集まって この騒ぎを起こしたおのお船を 遠ざけ改めて生松とお竜を一緒にすること になり田屋の跡を継がせたのはだいぶ日が 立ってからのことでし たOG
野村胡堂「銭形平次捕物控 猫の首環」
浅草安倍川町の仏米屋と言われた俵屋の隠居孫右衛門が隠居所で殺される。義理堅くて親切で評判の良い人だったという隠居は誰に、何故殺されたのか? 手がかりは猫? 猫の首輪?
絵と朗読:萩柚月
青空文庫:https://www.aozora.gr.jp/cards/001670/card54562.html
雑談・解説はblogにて↓( 全3回)
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4件のコメント
サムネの猫の可愛いことよ➰❤
猫すごいかわいいですね!絵の才能が天才的!
ありがとうございました🙂😄😉‼️
ネコチャンが、可愛すぎです。私の15歳で亡くなった超美人のネコちゃんとを思いだしチョッピリ涙、、、。絵がお上手ですね。